単層カーボンナノチューブの「アップコンバージョン発光」

 前回の講義で、有機ELのメカニズムを学習しました。基本的に蛍光を用いた有機ELでは、理論的に素子に加えた電荷の25%しか発光に利用することができませんが、中には、25%以上の変換効率で蛍光発光するものが報告されています。今回の講義では、有機ELの高効率化を目指した研究として、りん光を用いたEL素子、三重項ー三重項消滅現象(Triplet-Triplet Annihilation, もしくはTriplet-Triplet Fusion)とフォトンアップコンバージョンを用いた高効率化について紹介しますが、「カーボンナノチューブ」も面白いフォトンアップコンバージョン発光をすることが京都大学の宮内先生によって報告されています。
 単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)は、近赤外波長領域の優れた蛍光発光体として知られており、生体組織内部の血管や臓器の発光イメージング材料として注目されています。通常は800nm程度の波長(生体の第一光学窓:NIR I)の励起光によって、波長1100~1300nm程度の波長(生体の第二光学窓:NIR II)の蛍光を出します。以前の講義で、波長の長い近赤外光は、生体内の透過性が高く(水やヘモグロビンの吸収に邪魔されない)、深部まで届く光であることを学習しました。
 宮内先生らは、(6,5)-enriched SWCNTsの分散液に1064 nmの波長の近赤外光を照射すると、励起光よりも短い波長の950~1000nmの蛍光が得られることを見出しました(Nature Communications 2015, 6, 8920)。このアップコンバージョン発光は、SWCNTの欠陥に由来する局所的な電子状態のSWCNTにおける励起状態ダイナミクスに起因する現象の様です。エネルギーの低いNIR IIの光で励起して、エネルギーの高いNIR Iで蛍光を検出するという点が非常に面白いと感じます(こんな材料、SWCNTの他にあるでしょうか?)波長1100nm以上の近赤外光は、広く普及しているシリコン製のCCDカメラでは捉えることができないため(注:高価なカメラでは捉えることができる)、特定のガン細胞などのみをイメージングさせるような分子設計をして、うまく使えば、将来的に低コストの機器で生体深部の情報を可視化できるような検査ができるような気がします。

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