発展学習:カルボニル化合物の求電子性の高い低いってどうなっているの?

「有機化学 1」では、カルボニル化合物の反応について徹底的に学びました。こうした勉強は、最新の研究とも直結しています。発展学習として、最新の論文を1報紹介しておきますので、興味のある方は、ダウンロードして読んでみてください。

【論文詳細】
Kinetics and Mechanism of Oxirane Formation by Darzens Condensation of Ketones: Quantification of the Electrophilicities of Ketones
Zhen LiHarish JangraQuan ChenPeter MayerArmin R. OfialHendrik Zipse, and Herbert Mayr
  J. Am. Chem. Soc. 2018140, 5500–5515.
DOI: 10.1021/jacs.8b01657

 

【コメント】
もちろん内容がバッチリ分からなくてもOKです。が、いろいろなケトンの求電子性について、定量的に見積もったお仕事で、なかなか読みごたえのある論文です。カルバニオンがケトンと反応して、四面体中間体が生成しているところは、さんざん勉強したパターンと同じです。巻矢印を書いてみると、どういう反応かは理解できるかと思います。図の一番下のE (in DMSO)というのが、ジメチルスルホキシド(溶媒の名前)の中での、ケトンの求電子性を数値化したもので、もちろん皆さんはアルデヒドのほうが反応性が高いことは理解していますから、右側に行くほど求電子性が高いということが分かるかと思います。

  1. カルボニル化合物は、基本的には求電子種として考えればOKと言いました。この論文で、求電子性の細かい違いについて、理解を深めてくださればと思います。
  2. ケトンやアルデヒドの水和反応を使って、置換基効果のお話をしました。いわゆる立体効果と電子効果についてお話したわけですが、むろん、それだけで説明することができないほど、有機化合物は多彩です。それに対する疑問の答えが、この論文にあると言っても良いでしょう。
  3. この論文を理解するためには、反応速度論の理解(反応速度式の取扱いができるようになること)が必要です。それについては、第3学期の「反応速度論」で勉強することになります。期待してお待ち下さい!(時間が許せば、「反応速度論」の講義の中で、この論文の内容を取り上げる予定にしています。)
  4. さて、ここまで読んでくださったみなさん。この反応の反応機構を巻き矢印で書けるようになるくらいはしておくと、試験で良いことがあるかもしれませんよ。

教科書に書いてあるような基礎的な話は、じつはそのまま、最先端の研究とつながっている。今、諸君が学んでいることは、化学者が努力して明らかとした血と汗と涙の結晶だ。
そして、ここで紹介した論文の内容は、何年かしたら、教科書に書き加えられているかもしれない。

そう、人類の知識の最先端は、常に動いていて、僕らは、開拓者としてそこに立つことができるんだ。

だから化学はやめられない!

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