半導体性単層カーボンナノチューブ (SWCNT)

 単層カーボンナノチューブ (SWCNTs) は,飯島らによって発見された日本発の化合物である.特筆すべき性質は,その吸収とバンド構造である.SWCNTの幾何学構造は,グラフェンシートの構造上の原点 (0, 0)を出発し,a1方向にベンゼン環n個分,a2方向にベンゼン環m個分移動した点(n, m)をつなぐヘリシティーベクトルをベースとする半無限の長方形を切り出して筒状に丸めたものとして定義することができる(図1).このとき、(n, m)をSWCNTのヘリシティーと呼び,n = mまたは (n–m)が3の倍数である時は金属性、それ以外の時は半導体性の性質を示す.半導体性SWCNT (s-SWCNT) は一次元構造により,バンド構造が量子化したファンホーブ特異点と呼ばれる状態密度が特異的に高いバンドをもっている.これはHOMOや LUMOといった分子軌道をもつ有機分子の性質と類似しており,バンド間の遷移に伴う吸収,発光をもつ.(8,3)SWCNTの電子状態密度とエネルギーを図2に示す.(8,3)SWCNTでは,V1からC1への電子遷移およびV2からC2への遷移に伴うNIR-IIのE11吸収帯(1000 nm)とNIR-IのE22吸収帯(680 nm)をもつ.すなわち、SWCNTは第1の生体の窓領域と呼ばれる600-900 nmの近赤外光で光励起し、蛍光を第2の生体の窓領域と呼ばれ生体透過性が高い約1100—1400 nmの蛍光を発光をする。そのためSWCNTの近赤外蛍光を利用した生体イメージングへの応用が数多く行われている。 例えば、Daiらはpoly(maleicanhydride- alt -1-octadecance) – poly(ethylene glycol) methyl ether [C18 – PMH-mPEG]を用いてSWCNTを水中に孤立分散させた複合体を報告した[3]。この複合体はマウスに投与すると腫瘍部位に選択的に蓄積する。その様子をSWCNTの蛍光を用いたイメージングにより確認し、NIR-Iの蛍光プローブよりも得られる像の解像度が高いことを報告している。このよう近赤外光励起と近赤外光蛍光を示すにSWCNTのは生体イメージング材料として魅力的であるが、SWCNTを用いて生体イメージングは行うには、SWCNTを水中に孤立分散状態にすることが求められる。

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