蛍光イメージングは、医学、生科学において、重要な解析・診断技術である。「タンパク質や培養細胞の蛍光イメージング」では、一般的に「可視光での光励起と蛍光」を利用した蛍光プローブが用いられることが多い。例えば、下村脩先生がオワンクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を同定し、ノーベル化学賞を受賞されたのは記憶に新しい。GFPが生化学の領域で活躍したのは、特定のタンパク質や細胞に目印をつけ、その挙動を可視化することが可能になったからであろう。GFPは488 nmに吸収極大を示す励起スペクトル、507 nmに吸収極大をもつ蛍光スペクトルを示すため、「可視光での光励起と蛍光」を利用した蛍光プローブの代表例といえよう。
一方、組織や生体では、「可視光を用いた蛍光イメージング」は適さない。その理由は、①体内に存在するヘモグロビン、メラニン、フラビンにより可視光が強く吸収されてしまうこと、②細胞内小器官による光散乱が起こること、の2点があげられる。そのため、組織や生体での蛍光イメージングを行う場合、「生体透過性の高い光」を用いる必要がある。では、「生体透過性の高い光」とは何であろうか?アンパンマンで有名なやなせたかしさんの作詞した歌に、「僕らはみんな生きている」という歌がある。この歌には、「手のひらを太陽にすかせてみれば、真っ赤に流れる僕の血潮」という歌詞がある。これは、色々な波長が混ざっている太陽光(白色光)のうち、生体透過性の高い赤色を示す光だけが手のひらを透過し、その結果、赤く見えるという現象である。生きていることを実感するという歌詞の表現としては大変素晴らしいが、科学的にいうと決して血の色が見えているわけではない(このあたりの詳細な解説はこちらを参照していただけるとありがたい)。
以前の生体イメージングシステムは、装置に課題があり、「励起光か蛍光のどちらかで可視光を利用する必要がある」という制約があった。例えば、近赤外蛍光を検出する場合、半導体シリコンが用いられていることが多く、撮影像の検出可能蛍光波長限界は 1000 nmほどであった。 そのため、可視光領域の光励起によって蛍光波長が 1000 nm 以下の蛍光を発する物質が蛍光プローブとして多く用いられてきた。また、励起光に近赤外蛍光を利用する場合、含希土類元素ナノ粒子のアップコンバージョンなど、800~1000 nmの励起光で可視光蛍光を観測する蛍光イメージングが研究されている。これは既存の可視光蛍光を感知イメージングシステムがそのまま利用できるという点が利点である。しかし、いずれの場合も励起光か蛍光のどちらかで可視光を利用する必要があるため、近赤外光の利点である深部のイメージングを可能にさせるという点が最大限に生かされていない。近年では、装置開発において、近赤外光での励起と蛍光検出が可能になってきており、励起光と蛍光の双方を近赤外光にした蛍光プローブも盛んに研究されている。
加えて、近年では、生体組織内の光の吸収と散乱が最 も小さくなる波長域が波長 1000 nm を超える光が生体深部の観察に有利であるとわかっている。また、近赤外領域といって波長領域により、生体に透過可能な深さが異なる。
・700~900 nm (第一の生体の窓,NIR I) 皮下 10~20 mm 程度
・1100~1350 nm (第二の生体の窓,NIR II) 皮下 20~30 mm 程度
・1550~1800 nm (第三の生体の窓,NIR III) より深部の観測が可能
こうした、1000 nm以上の蛍光波長を利用した蛍光材料として、量子ドット、半導体性単層カーボンナノチュー ブ、希土類含有セラミックスナノ粒子、低分子有機蛍光色素などが報告されており、生体内深部の生命現象の可視化の観点から、注目されている。
近赤外蛍光を使った生体イメージング
プッシュ通知を