Research Seminarで発表する前に読むこと。

ゼミでは、作業を報告するのではなく、考察を発表し議論する。
そのために

1)実験するにあたって
 作業者は、実験を作業と捉え、実験結果を、「成功・失敗」で考える。
研究開発者は、1回の実験からどれだけ沢山のファクトを引き出すことができるかを考え、作業仮説をもとに、実験を通して、いくつもの検証を進める。
みなさんは、作業者ではなくて研究開発者にならなければいけない。成功しました、失敗しましたではなくて、何が分かったのかを述べなければならない。

2)実験の記録と考察について
 力量ある研究開発者になるためには、まず、作業仮説を立てて、実験に臨むこと。そして、仮説に基づいて何が起こるかをあらゆる場面で予想し、実際に起こっていることと照らし合わせながら実験を進めること。
実験ノートには、これらがすべて記載されていなくてはいけない。
また、こういうやり方をしていれば、1回の実験から、多くの知見を引き出すことができる。
実験しながら考察し、作業仮説を修正したり、あらたな作業仮説を付け加えたりする。(実験は、決して始めるときに考えた通りに進めるべきものではなく、臨機応変、考察に基づいて最適な進め方へと変化して構わない。)

3)考察をより深め、分かりやすいスライドを作成し、ゼミでの発表に臨む
 以上の下準備を経て、ゼミの発表の準備へと入る。実験について説明するためには、何を目的に実験するのかはもちろんだが、なぜ、その作業仮説を考えたのか?について、その根拠となる実験結果や参考論文などを合わせて紹介する必要があるだろう。また、実験しながら検証した様々な結果をもう一度まとめて考え、整理することで、新たな発見をすることも多い。これらの考察をまとめて分かりやすく説明するために、得られた実験データを適宜紹介することで、分かりやすく新しく得られた知見について説明をする必要がある。説明をする上では、例えば、過去の実験結果と比較するテーブルを作成したり、過去のNMRチャートや吸収スペクトルとの比較を行ったりすることが効果的なことも多い。新しく得られたデータだけを示すのではなく、考察を説明するために、新しいデータを含め、全てのデータを再構築するのがゼミの発表である。

【重要】
4)ゼミのために実験するのは間違い。研究を進めるためにゼミがある。
「今週ゼミがあるから、なんでもいいから新しい実験をしなくては」と考えるのは大間違い。実験は、論文のアウトラインにもとづいて、優先順位の高いものから行うのが王道であって、同じ実験を繰り返すこともあるだろうし、原料合成で手一杯のときもあるだろう。新しい実験をしなくてはいけないと考える諸君は、おそらく、ゼミを、作業報告(進捗報告)・工程管理を目的とする場だと誤解している。冒頭で記載したとおり、ゼミでは考察を発表し議論する。もっと言えば、研究のお悩み相談で構わない。実験が上手くいかないときほど、ゼミの機会を利用し、データを整理し、研究室の仲間と、いろいろな視点から議論することが大切である。だから、ゼミで望み通りの結果を発表できないからといって落ち込むことはない、ゼミは研究の過程であって、成果では無いからだ。
ゼミで新しい知識やアイデアを得るのは、発表者にとどまらない。聴衆も、議論に参加することで、自分の研究のヒントを掴むことが多々ある。十人十色の知識と興味を持つ仲間だから、あなたの考察は、聴衆にとって、(自分では考えられない)極めて価値の高い情報である。合っている間違っているなんて関係ない。異質であることに価値がある。また、ゼミには、まだ研究者として経験の浅い者も多く参加している。あなたにとって当たり前の情報・知識でも、そうした者にとっては、貴重な情報・知識になりうる。たとえ、すでに論文発表している原料合成しかしていなかったとしても、実験のときの工夫やコツについて、考察とともに丁寧に発表し、研究室の仲間と知識・経験を共有することで、自分だけでなく、全員の研究にポジティブな効果をもたらすことができる。

[お願い1:みんなの大切な時間だから]
 丁寧に作り込まれたプレゼンテーションを準備することで、無駄な確認作業や、誤解に基づく無意味な議論を無くし、短くても中身の濃い議論が可能になる。発表者が、手間を惜しまず、聴衆の気持ちになって準備するだけで効果は絶大である。みんなの大切な時間を使うのだから、知的好奇心を刺激し、勉強になり、そして、ひとりひとりの研究に活かされるようなゼミの発表を心がけよう。
実験は、作業仮説を立てるところで、勝負が決まっている。実験を始める前に、しっかりと考えるクセをつけよう。結局それが、ゼミで良い発表をするための近道かと思う。

[お願い2:ゼミを有意義な時間にできるかどうかは全員の意識にかかっている]
 気軽に知識・経験を共有し、研究相談をするようなゼミを作り上げることができるかどうかは、発表者の準備だけでなく、聴衆が、能動的に、自由闊達に、議論に参加することが重要である。関連する事項を「研究を始める前に読むこと」にも記載したが、ゼミは、研究の創造性の源である。「学生が発表し、教員がコメントするだけのゼミ」にするのか、それとも、「全員で未知に挑み、全員が少し成長するゼミ」にするのか、を決めるのは、発表を聴く側である。聴衆が頑張らないと良い発表者が育たないし、発表者が頑張らないと良い聴衆が育たない。発表者が、勇気を持って、自分の考察を述べていれば、聴衆も、勇気を持って、それに応え、自分の考察を述べてほしい。そうすれば、Research Seminarは、創造的な議論を楽しむ有意義な時間となる。発表者はもちろん、参加者全員が、ワクワクしながら参加し、研究を大きく前進させるきっかけとなるようなResearch Seminarを作ることができるかどうかは、参加者全員の意識にかかっている。

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