有機化学の研究は生の食材を扱うのと似ている

有機化学の研究は生の食材を扱うのと似ている
 例えば飲み屋でアルバイトをしているとします。いけすから鯵をつかまえて、3枚にさばき、お刺身にしてお客に出すとしましょう。いけすから鯵を出したところで放置しても、さばいたところで放置しても、お刺身にしたところで放置しても、魚は傷んでしまいます。3枚にさばいたんだけど、もう今日は疲れたので今日のお客には品切れということにして、次の日に来るお客さんに食べてもらえばいいやなんてことはありえません。こんなことをしていたら利益があがらなくて当然です。お客さんにお刺身を出すならば、お刺身を出すってところまで一気にやってしまわないといけません。これと有機化学の研究は似ています。

 次に反応の例をあげて、やるべきところまでやらないとどうなると考えられるかみてみましょう。
反応例 試薬Aに試薬Bを加え、化学種Cを発生させ、化合物Dと反応させ、60度で1時間撹拌し、目的物Eを合成

ケース1 試薬Aに試薬Bを加え、化学種Cを発生させたので帰宅。
・化学種Cが不安定な物質であれば、次の日には別の化合物に分解されてしまっていて、お刺身と同じことになって無駄になってしまいます。

ケース2 化合物Dと反応させたので帰宅。
・化学反応は目的の反応だけが起きるとは限りません。目的物Eがさらに過剰反応してしまうこともありえます。また、目的物Eが不安定で時間をおくと分解してしまうことも考えられます。

ケース3 60度で1時間撹拌したので室温し放置して帰宅。
60度で一時間撹拌して室温にしたので、反応を止めました。は間違いです。一般的に有機反応では反応が効率よく進行し、高収率で目的物を得るために、反応性の高い試薬を使ってことが多いです。そのため、温度を下げたからといっても、反応試薬の海の中に化合物がいますので、室温で反応が続いている可能性があります。

このようにキリの悪いところで実験を終わらせると、高い魚(試薬)を卸してきたが、腐ってしまって(分解してしまって)生ゴミ(廃液タンク行き)になった。という結果になってしまいます。よって、60度で1時間撹拌したのち、反応が続かないように反応の後処理をする。ここまでが最低限しないといけないことになります。また、目的物Eが不安定であれば、すぐに生成したことをスペクトルで確認して精製をし、精製したものを分解する前にスペクトルをとって確認しなければならないことになります。つまり有機化学の研究は生ものです。腐る前にやるべきところまでやらなくてはいけませんし、化合物のご機嫌にあわせて実験をしないといけません。

有機化合物は生き物みたいなもの
 上の段落で述べたことを聞くと、ペットを飼うように、「有機化合物は生き物として扱わないといけないのですか?」と思われるかもしれません。個人的には「生き物みたいなもの」だと思っています。きちんと、愛情をかけないといけないですし、世話をしないと死んでしまいます。試薬会社から試薬を買うと、保管方法が書かれていますよね。例えば、冷蔵保存の試薬であれば冷蔵保存しなければ、分解して死んでしまいます。つまり保管するのに適切な温度というものがあります。これは熱帯魚を冷たい水で飼うと死んでしまったり、低い温度で生活をしている動物を赤道直下で飼育したら体調を崩してしまうのと同じです。また酸素や湿気がない状態でないと分解してしまう化合物もあります。こういう化合物は、グローブポックスや嫌気条件(酸素や湿気のない条件)で保管(飼育)してあげてください。

本当に愛情をもって大事にしてあげてください。たのんます!!!

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